ただたんパーソナルジム金山

血圧が気になる方のための運動ガイド:
国内外のガイドラインに準拠したリスク管理と運動の進め方

1.成人の血圧分類と目標血圧

日本では、医療機関で測定する「診察室血圧」と、自宅で測定する「家庭血圧」の2つの基準が用いられますが、診断においては家庭血圧の数値が優先されます(1)。
(単位:mmHg)*血圧値の分類表は(1)に基づく。

分類 診察室血圧(上/下) 家庭血圧(上/下)
正常血圧
120未満かつ80未満
115未満かつ75未満
正常高値血圧
120~129かつ80未満
115~124未満かつ75未満
高値血圧
130~139かつ/または80~89
125~134かつ/または75 ~ 84
Ⅰ度高血圧
140~159かつ/または90~99
135~144かつ/または85~89
Ⅱ度高血圧
160~179かつ/または100~109
145~159かつ/または90~99
Ⅲ度高血圧
180以上かつ/または110以上
160以上かつ/または100以上
(孤立性)収縮期高血圧
140以上かつ90未満
135以上かつ85未満

・[2025年改訂]降圧目標:日本高血圧学会の2025年のガイドラインでは、分類とは別に、治療によって目指すべき目標値(降圧目標)が全年齢において、「診察室血圧130/80mmHg未満(家庭血圧125/75mmHg未満)」に統一されています(1)。

2.運動が血圧に及ぼす生理学的影響

運動は、短期的および長期的な両面で、血圧に影響を与えます。
主に血管内皮機能(血管の広がりやすさ)が改善されることや、自律神経のバランスが整う(副交感神経の働きが高まる)ことで血圧が低下します(2,3)。

・運動後低血圧

1回の運動セッション(有酸素運動、筋力トレーニング、またはそれらを組み合わせた運動など)の直後から、血圧が安静時の基準値よりも低下する現象です。この効果は数時間から最大24時間持続することがあり、心臓血管系の保護に重要な役割を果たします。運動後低血圧による降圧応答は、正常血圧者よりも高血圧者においてより顕著(大きな低下)に現れるのが特徴です(4,5)。この単回ごとの血圧低下が日々の運動によって繰り返し発生することで、長期的な血圧の制御(慢性的効果)に寄与すると考えられています(4)。

・慢性効果

長期的な運動の継続によって、安静時血圧の低下が期待できます。メタアナリシスの結果によると、長期間の運動継続による降圧の目安は、有酸素性トレーニングで約 4.7/3.1 mmHg、レジスタンストレーニング(筋トレ)で約 4.5/3.8 mmHg の低下が認められています(6)。さらに、習慣的な有酸素運動を行う高血圧患者においてより顕著に発揮され、収縮期血圧を 8.3 mmHg、拡張期血圧を 5.2 mmHg 低下させるというデータも報告されています(3)。数値としてはわずかな低下に思えるかもしれませんが、安静時血圧が 3 mmHg 下がるだけでも、脳卒中による死亡率を8%、冠動脈疾患のリスクを5%減少させると推定されており、将来的な健康維持において極めて大きな意義があります(4)。

3.運動を始める前のリスク管理と注意点

・PAR-Q+(身体活動質問票)の活用

「心臓病の有無」「血圧の薬の服用」など下記の7つの質問を通じ、運動を開始する上でのリスクを事前に確認します。いずれかの質問に「はい」がある場合は、医師による許可が必要です(7)。


1.心臓病または高血圧を医師から指摘されたことがありますか?
2.安静時、日常生活動作または身体活動の実施中に、胸の痛みを感じますか?
3.めまいでふらついたり、または、この12か月間に意識を失ったりしたことがありますか?めまいは高強度運動時などの過呼吸に関連するものは除きます。
4.心臓病、高血圧のほかに慢性疾患がありますか?
5.慢性疾患で処方薬を服用中ですか?
6.現在(またはこの12か月間に)身体活動を増やすことで悪化する恐れがある、骨、関節、軟部組織(筋、腱、靭帯)の問題がありますか?以前にあったけれど、現在の身体活動に影響しないものは含めません。
7.医師の監督下でないと身体活動を行ってはいけないと医師に言われたことがありますか?

・運動の禁忌(見合わせ基準)

◇絶対的禁忌

安静時の血圧が180/110mmHg以上の場合は、服薬の有無にかかわらず運動は禁止です(5)。

◇相対的禁忌

安静時血圧が160/100mmHg以上の場合は、運動前に必ず医師の許可を得る必要があります(5)。

・血圧に限らず、運動をするうえで不安な点があれば、かかりつけ医など医師に相談することが大切です。

・投薬による影響

◇β遮断薬

心拍数の上昇を抑制する薬です。心拍数で、運動強度を測るのが困難なため、「主観的運動強度」をもとにエクササイズのレベルを調整します(6)。

◇カルシウム拮抗薬・α遮断薬

血管を拡張させるため、運動後に血液が抹消にたまりやすくなります。急な立ちくらみを防ぐため、長めのクールダウンが必要です(6)。

・薬の分類の一例
・そのほか服用中の薬の作用機序や副作用を確認したうえで、運動に取り組むことが大切です。

4.運動のガイドライン

・有酸素運動

有酸素運動は、日本のガイドラインにおいて高血圧の運動療法の「中心的な効果を生む部分」として重要視されています(2)。厚生労働省のプログラムでは、運動療法の第一歩として、まずは有酸素運動とストレッチングから開始し、身体が慣れてきたら筋力トレーニングを加えていくという順序が推奨されています(2)

種目:

ウォーキング(速歩)、踏み台昇降、ジョギング、ランニング、サイクリング、水泳、水中歩行、買い物や掃除など生活活動(2,3)

頻度:

◇日本の指針

できれば毎日、あるいは週3〜5回以上の頻度で定期的に実施することが勧められています(2)。時間は1日あたり30分以上を目指し、まとまった時間が取れない場合は、10分以上の運動を合計して1日の目標時間を達成しても、単回の運動と同様の降圧効果が得られます(3)。また、運動を急に始めるのが難しい人に対しては、掃除や買い物などの生活活動を含めた「1週間あたりの総運動時間」を基準に、個人の生活リズムに合わせて柔軟に調整することも認められています(3)。

◇高血圧など慢性疾患のある成人に対してのWHO(世界保健機構)の指針

具体的な週の回数よりも、「1週間あたりの総運動量」週に150〜300分の中強度の有酸素運動を行うことが推奨されています(8)。活動は1週間を通して定期的に分散させることが望ましいとされており、さらなる健康増進のためには、中強度の活動を週300分以上に増やすことでより高い効果が得られる可能性があるとしています(8)。加えて、WHOの基準では運動の実施だけでなく、「座りっぱなしの時間を減らすこと」も健康維持・増進のための独立した重要な推奨事項として強調されています(8)。

強度:

血圧の急激な上昇を抑えつつ安全に効果を得るために「低〜中強度」で行うことが推奨されています(3)。中強度は、運動中のきつさを主観的に評価するボルグスケールにおいて「楽である」から「ややきつい」と感じる範囲(2)であり、心拍数が上がり呼吸が速まりますが、会話を続けられる程度の負荷を指します。このような運動は、高強度の運動に比べて運動中の血圧上昇が抑えられる(3,6)ため、著明な血圧上昇によるリスクを避けながら、心血管系疾患の予防や生活の質(QOL)の向上といった利益を安全に得ることが可能です。

・レジスタンス運動(筋トレ)

高血圧症の改善において、レジスタンス運動は有酸素運動を補完する重要な役割を担っていますが、その降圧効果に関する位置づけは指針によって異なります。

各ガイドラインの立場:

◇日本の指針

厚生労働省のプログラムでは、筋力トレーニング単独では明らかな降圧効果は期待できないという立場をとっています(2)。しかし、有酸素運動と併用することで、将来的なフレイル(心身の脆弱)やサルコペニア(著しい筋量減少)を予防し、健康を維持するために、高血圧を有する人にも勧められる活動として位置づけられています(2)。

◇WHO(世界保健機関)の指針と国際的なエビデンス

WHOの指針では、高血圧などの慢性疾患がある成人も含め、すべての成人に対し、週に2日以上、すべての主要筋群を動員する中強度以上の筋力向上活動を行うことを強く推奨しており、これにより心血管疾患による死亡率の低下や身体機能の向上、生活の質(QOL)の改善といった利益が得られるとしています(8)。また、メタアナリシスによって、レジスタンス運動は有酸素運動と同等の価値を有する生活習慣改善因子と位置づけられ(5)、長期的な実施によって安静時の血圧が収縮期で約4.5mmHg、拡張期で約3.8mmHg低下するという事実も示されています(6)。

プログラム:

◇頻度

週2~3回、胸・背中・下肢などの主要な筋群に対して実施することが勧められます(2)。(WHOでは週2回以上(8))

◇負荷設定の基準

10~15回を1~2セット、自覚的に「楽」・「非常に軽い」と感じる負荷から始めることが推奨されています(2)。
特に、最初の約2か月間は、「移行期」として正しいフォームと呼吸法の習得を最優先し、安全性に配慮すべきです(7)。
セット間に2~3分(またはそれ以上)の休憩をとることが推奨されます(6)。

◇注意点
バルサルバ法(息止め)を避ける:

筋トレ中に息を止めて力むことは、胸腔内圧を高めて心拍出量を低下させ、血圧を著明かつ急激に上昇させるため厳禁です(5,6)。常に「吸って吐いて」の呼吸を止めずに続けることが不可欠です(2)。

降圧薬服用時の配慮:

カルシウム拮抗薬や遮断薬などを服用している場合、血管拡張作用により運動後に血液の滞留が起こりやすいため、クールダウンを通常より長めに行う必要があります(6)。

5.まとめ

高血圧管理において運動は、薬物療法に匹敵する価値を持つ重要な生活習慣改善因子です(1,5)。しかし、安静時血圧が180/110mmHgを超える極めて高い状態での運動(5)や、血圧を急激に上昇させる「息止め(バルサルバ法)」は、心血管系のリスクを招くため注意が必要です(5,6)。自覚症状がなくとも、必要に応じて医師の診断と許可を得て、安全かつ段階的なプログラムを実践することで、運動のメリットを享受することが大切です。なお、トレーナーの役割は医学的治療や処方ではなく、エビデンスに基づいた安全な運動実践をサポートすることにあります。

6.参考文献

1.日本高血圧学会高血圧管理・治療ガイドライン委員会(編).高血圧管理・治療ガイドライン2025ダイジェスト版.ライフサイエンス出版.2025.
2.厚生労働省.高血圧の人を対象にした運動プログラム.
3.家光素行.高血圧症を改善するための運動.e-ヘルスネット(厚生労働省)
4.Marcelo Corso,Tiago C.de Figueiredo,et al.血圧と心拍変動へのストレングストレーニングの影響:系統的レビュー.NSCA JAPAN Volume30,Number3,pages56-73,2023.
5.Marc R. Apkarian.レジスタンスエクササイズ中の血圧特性と応答.NSCA JAPAN Volume29,Number2,pages46-53,2022.
6.Brad J.Schoenfeld,Ronald L.Snarr(編).NSCAパーソナルトレーナーのための基礎知識第3版(日本語版).NSCA JAPAN,2024.
7.Jeff Young.健康評価スクリーニングと最新の血圧ガイドラインおよび認定パーソナルトレーナーにおけるその活用.NSCA JAPAN,Volume29,Number6,pages54-59,2022.
8.日本運動疫学会、国立健康・栄養研究所、東京医科大学公衆衛生学分野、厚生労働科学研究費補助金20FA0601 2021.WHO身体活動・座位行動ガイドライン(日本語版).2021.

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